読書レビュー:サカナとヤクザ ~暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う~/鈴木智彦(小学館)
読書レビュー:夜と霧(V・E・フランクル):みすず書房
原題は「心理学者、強制収容所を体験する」といった意味。
著者はアウシュヴィッツを含むナチスの強制収容所での生活を体験した精神科医。本書はその体験をまとめ、「生きること」について述べるまで突き詰めたものである。
極限状態で人は何を考えるのか。死んだほうがましな世界で、何が人をつなぎとめるのか。つなぎとめられない人との違いは何か。
大きく強制収容所に入る前、収容所の中、出たあとの3つのフェーズでの心理状態について述べられている。
人を人たらしめる最後の砦と、それを失わないための姿勢を教えてくれる。しかしそれを保つのはどう考えても簡単ではない。同じ境遇に立ったとき、私がそのようにいられるか、全く自信が持てなかった。
本書は収容所の生活がいかに凄惨か、について述べる本ではない。極力客観的な、普遍的な事象について述べようとする著者の姿勢が読み取れる。しかしそれでも、エピソードの節々に出てくる惨たらしさに目を背けたくなることが多数あった。
またあとがきにあったように、著者は本書内で極力(原著では全く)「ユダヤ人」という言葉を使わなかったことは特筆しておきたい。
以下印象に残った部分。
・感情の消滅や鈍磨が最初に来る
・すべてを失われたときにでも、人は愛する人の面影を精神料で思い出すことにより満たされることができる。
・典型的な「被収容者」になるか、それともなお人間として己の尊厳を守るかは自分自身が決めること。
・大方の被収容者にとっては「生き残れるか。生き残れなければ苦しみに意味はない」。しかし著者は「この苦しみに意味はあるか。意味がなければ生き残る意味はない」
→苦悩の価値。ニーチェ「なぜ生きるかを知っている者は、どのように生きることにも耐える」
・一段高いところから自身の状況を観察することで苦しみから逃れる
・クリスマス〜新年の間に最も亡くなる人が多くなる
・経験は誰も消せない。最も強固な「そこにあるもの」である。
・被収容者、監督者という分け方で人を括ることはできない。どちらにもまともな人間、まともでない人間はいる
・収容所を出たあとに希望が絶たれ命を失った者もいる。未来の目的を見つめること、人生やだれかが自分を待っている、という思いを失わないこと
アニメ「けいおん!」を音楽的に振り返る〜10周年に寄せて〜
シャッフル再生していたら、久しぶりに「ふわふわ時間」が流れてきました。
結論から言うとちょっと泣いてしまいました。
アニメ「けいおん!」の放送は2009年4月で、もうすぐ10年になります。
わたしは当時大学生でしたが、アニメの舞台となっているところのすぐ近くに住んでいたこともあり、なにかと思い出深いアニメです。
「けいおん!」の功績は日本アニメ界にとって非常に大きく、「涼宮ハルヒシリーズ」と並んで2000年代のアニメ史を語る上で欠かせないどころか、アニメ史を"けいおん!以前"と"けいおん!以降"に分けるほどの重要作品です。
これほどの重要作品である理由はいっぱいありますが、今回は音楽的な観点で振り返ってみたいと思います。
1.「けいおん!」とは
私立桜が丘女子高等学校(桜が丘高校)[注 8] に入学した田井中律は一緒に入学した幼なじみの秋山澪と共に軽音部の見学に行こうとするが、部員が前年度末に全員卒業してしまったため、4月中に新入部員が4人集まらなければ廃部になると聞かされる。その後、合唱部の見学に来るつもりで律の勧誘で軽音部に来てしまった琴吹紬は、律と澪の掛け合いを聞いているうちに彼女達を気に入り、入部することに同意する。3人は部の存続のため、あと1人を入部させるべく勧誘活動を開始した。
そんな中、主人公の平沢唯は何か部活に入ろうとするが何も思いつかず、2週間もの間入部届を書けずに日々を過ごしていた。そんな時、軽音部の存在を知った唯は「軽い音楽って書くから、簡単なことしかやらない(口笛とか)」と思い入部届を出してしまう。実際にはバンド活動をするなどを知り「自分にはバンドはできない」と入部を取り消してもらうために部室を訪れた唯だったが、3人の演奏を聴いて心を動かされ入部を決意。
こうして集まった4人は唯の楽器購入を手始めに、練習・合宿・学園祭とゼロからの音楽活動を行っていく。
原作は「まんがタイムきらら」系列で2007年からスタートした4コマ漫画。いわゆる学園青春モノであるが、真面目にバンド活動で上を目指すというよりは登場人物の日常にスポットを当てつつ、メンバーの関係性や気持ちの変化をメインテーマにしています。
アニメ化当初の人気はすさまじく、今ではすっかりおなじみとなった聖地巡礼(=アニメの舞台となった場所を実際に訪問すること。当時はそれほどメジャーではなかった)のために滋賀県の豊郷小学校や京都市左京区にファンが殺到するほか、主人公の唯のギターであるGibsonのレスポールスタンダード(約25万円)が各地で売れまくったり、軽音部の入部者が急増するといった現象が巻き起こりました。
「けいおん!」のヒットを皮切りに、以降女子高生の日常4コマ漫画/アニメが大量生産されることとなり、これらは後に4文字系(ゆるゆり、みなみけ等)として呼ばれることになります。
「けいおん!」の監督は当時新人であった山田尚子監督。余談ですが山田監督はこのあと「たまこまーけっと」「たまこラブストーリー」「聲の形」などの監督を務めることとなり、わたしの大好きな監督の一人であります。
2.「けいおん!」のヒットと功績
2006年に「涼宮ハルヒの憂鬱」が大ヒットとなり、さらに2007年には「らき☆すた」が大ヒット。その制作を務めていた京都アニメーションが「けいおん!」を手がけたことからも視聴者の期待は高かったと思います。
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これらの期待が後押しした部分は少なからずありますが、最大の理由は楽曲でしょう。
軽音部のメンバーで構成されたバンド「放課後ティータイム」の楽曲は、元々は原作中でメンバーたちが考えた作詞等をベースに作られ、キャラの声優たちが歌うというものでしたが、これが単なるキャラクターソングの範疇を大きく超え、1つのバンドミュージックとして大いに通用する完成度を誇っておりました。
今でこそアイマスシリーズ、ラブライブ、バンドリなど、楽曲に力を入れたアニメもずいぶん増えましたが、けいおん!以前ではあくまでもキャラ(声優)がそのキャラらしい、かわいらしい歌を歌うキャラソンが当然でした。
そこに過去のロックミュージシャンにリスペクトを払いつつ、本格的なバンドミュージックを持ち込み、なおかつキャラソンとしても成立している、という放課後ティータイムの楽曲が登場し、瞬く間に人気となりました。ひとえに京都アニメーションの音楽スタッフの尽力の為せる技です。
なお話は逸れますが、同じく京都アニメーション制作の「たまこまーけっと」では、毎回レコードの曲を登場人物が流すシーンがありますが、この曲はすべて架空のアーティストと曲で、それぞれの時代(例:70年代フレンチポップ)をイメージして音楽スタッフが作成したものとのこと。気合の入り方がすごい。
マニュエラだから作れた『たまこまーけっと』の音楽の記事一覧 | サウンド&レコーディング・マガジン
閑話休題。
こうして高い音楽性を秘めた放課後ティータイムは大人気となり、オリコンチャートでも1位を獲得するなど圧倒的な反響を呼びました。
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以上を踏まえて改めて「ふわふわ時間」を聴いてみましょう。
間奏のギターソロ、Cメロのベースライン→サビの流れとか、なんていうか、本物じゃないですか??アニメ本編でこれが流れたときは今以上の衝撃でした。
放課後ティータイムは他の曲もいい曲が山程あるんですが、よろしければアルバム聴いてみてください。
夢眠ねむ卒業に寄せて
どうも、お久しぶりです。
ねむきゅん、卒業してしまいましたね。
武道館の卒業公演、わたしは行けませんでしたが、毎度のことながら熱量のこもったナタリーさんのレポートを見れて胸がいっぱいになりました。
卒業は寂しいですし、思うことはむちゃくちゃありますが、
何よりも、完璧と言える素晴らしい引き際だったな、と。
夢眠ねむは、すでにでんぱ組.incとしての活動にとどまらず、その幅広い知識と経験、多摩美大卒のキャリアをフル活用して、書籍、キャラクターデザイン(たぬきゅん)、バラエティ等、活動の範囲をどんどん広げています。ボーカロイドにもなってるし。
また本人もそれなりの年齢(年齢非公開ですが)です。
アイドルとその年齢については様々な議論があるので割愛しますが、聡明なねむきゅんが考えないとは思えません。
このタイミングで他の活動にシフトしていくのは、自身のキャリアから見ても極めて自然です。彼女のポテンシャルを考えると、今後の長い人生をアイドルの華やかなスポットライトだけで終わらせるのはあまりに勿体ない、と個人的には思います。
でんぱ組としても新メンバーのねもぺろ加入から1年が経ち、新体制が板についたところで次のステップに進むというのは、総じて良いことだと思う。残ったメンバーは寂しいとは思いますが、限りなく皆が幸せとなる卒業だった。
とはいえ、やはりイチファンとして、もう見れないというのは辛い。
どうしようもなく辛い。
辛いけど、
彼女の今後のキャリアがあまりにも輝かしく見えるので、わたしは素直に見送れるのだと思います。
ねむきゅん、今までありがとう。
でんぱ組に初めて興味を持ったのは、あなたが同じ三重出身であるということを知ったときでした。
最後に、脱退後メンバーについてほとんど言及していなかった最上もがちゃんが、ねむきゅん卒業に寄せてコメントを出していたこと、バルーンを送っていたのを見てちょっと泣きそうになりましたとさ。
ずっと元気でいられて、同じステージの上で見送れたら良かったな、なんて思いながら、それもきっと耐えきれなかったんだろう。誰も不幸にさせない卒業はとても素晴らしい。ねむさん、おめでとう。 pic.twitter.com/fQ599SpTE5
— 最上もが (@mogatanpe) 2019年1月7日
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読書レビュー:モリー先生との火曜日(NHK出版)/ミッチ・アルボム、別宮貞徳
- 作者: ミッチ・アルボム,別宮貞徳
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2004/11/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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ALSで死に瀕したかつての恩師、モリー先生との最後の講義を記した本。
大学を卒業してから疎遠であった筆者がどのようにモリー先生と再会したのかは本文を読んでいただきたいですが、死に直面しても最期まで人との対話を尊重し続けたモリー先生の姿勢には心を動かされるものがある。
日々を忙しく過ごす中で、ほとんどの人は何が大事なものかを真面目に考えなくなってしまう。まして「愛」とは何かだなどと、いい年こいてバカ真面目に考えられる人がどれくらいいるのだろう。
しかしそれをバカ真面目に考えることは決して恥ずかしいことではない。
筆者はモリー先生を「コーチ」と呼んでいた。これは尊敬の意と、親しみやすさの両側からの意味だ。
このように生涯を通した生き方について、大切なことを教えてくれる師に出会えるということは極めて稀有なことである。
僕は残念ながらまだ出会えていない。
しかし師という言葉を耳にするたび、オウム真理教事件の林死刑囚に対して裁判長が述べた
「およそ師を誤ることほど不幸なことはなくその意味において被告人もまた不幸かつ不運であったといえる。」
という言葉が頭の中をぐるぐる廻る。
人生の師に出会うことは実はものすごく難しい。
読書レビュー:深夜特急<6>(新潮文庫)/沢木耕太郎
どうも、お久しぶりです。
2017年初更新になってしまいました。明けましておめでとうございます。
本も読んでなかったわけではないですし未レビューのものも溜まってきてますが、
ひとまず少しずつ出していこうかと。
ーーーーーーーーー
深夜特急(1)を読み始めたときは26歳ぐらいのとき。当時の沢木さんと同じぐらいの歳だったのに、気づけば30代になってしまった。
初めて(1)を読んだときとは自分の立場や考え方が変わっているので、後半は今までのような旅をしたい!と突き動かされる衝動はないものの、物語を聞いているような、不思議な心地よさがあった。
(3)ぐらいを読んだ29歳ぐらいのとき、「最初に読んだときより旅をしたい気持ちが薄れている!若いうちに早く読み終わらなくては!」と焦ったものだが、今となっては別の視点で読んでもその面白さは普遍だと思っとります。
また面白いのは中東までかな〜と勝手に思ってたのですが、ヨーロッパに入っても相変わらずおもしろい。
その理由は国柄や沢木さんの体験自体よりも、この本がエッセイとしての面白さを持っているからだろうと思う。
永遠の青春小説。From youth to Death.
10年前に出会っていたら、僕もふらふらインドとか行ってただろうなあ。
しかしおっさんに近い歳になった自分としては、旅から帰ってきてどうやって現実(=日本)と向き合っていったのかがラストで読みたかった。
Amazonでも全6巻セットでお求めやすくなってますので、GWに向けて一気読みするのもおすすめです。
ほな。
2016年総括:買ってよかった・面白かった本3選
とうとう2016年も終わりですね。
と言っても体感的にはあれよあれよと言う間に大晦日になってしまったような感覚なので、あまり感慨深く振り返ることはありませんでした。
2013年〜2015年は自分でも「下積みの時期」と称していたこともあり、目立った変化もなく防戦一方の日々でしたが、今年は仕事上もプライベート上も大きな変化がある年でした。
本記事でそれらを詳細に書くのはやめておきますが、来年も慌ただしくなりそうです。
ブログ自身は相変わらずの零細っぷりですが、去年に比べてアクセス数もぐんと伸びたようなので嬉しい限りです。継続が大事ですね。
今年読んだ本たち
2年ぐらい前に比べたら随分読書スピードは落ちましたが、なるべくアンテナ張って読むようにしてます。楽しいですしね。
数こそ少ないですが、せっかくなので個人的に良かったものを3冊だけ挙げておきます。
(1)失敗の本質−日本軍の組織論的研究(中公文庫)
- 作者: 戸部良一,寺本義也,鎌田伸一,杉之尾孝生,村井友秀,野中郁次郎
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1991/08
- メディア: 文庫
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今年一番学びのあった本を挙げろと言われたらこれを挙げる。有名な本なのでご存知の方も多いでしょう。
太平洋戦争で歴史的な大敗を喫した旧日本軍。その敗北の本質を組織論的な観点、つまり日本軍という組織が、引いては日本国がどのような組織的欠陥を持っていたかを論じた一冊。
読み物としても面白く、学びも多い良書。
こちらにもまとめております。
(2)クラウド・コレクター(ちくま文庫)/クラフト・エヴィング商會
総合的に見て今年一番面白いと思った本はこれ。その発想、物語、カバー、目次、挿絵、すべてが面白い。
でんぱ組.incの夢眠ねむさんも「人生の1冊」として挙げておりました。
あらすじを含めて本書について細かく書くのは避けたい。とりあえず読んでほしい。
(3)マーケット感覚を身につけよう---「これから何が売れるのか?」わかる人になる5つの方法(ダイヤモンド社)/ちきりん
マーケット感覚を身につけよう---「これから何が売れるのか?」わかる人になる5つの方法
- 作者: ちきりん
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2015/02/20
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はてなではすっかり炎上芸人のような扱いを受けているちきりん氏の本です(2015年発売ですが)。
身近にある「価値のあるもの」を認識する能力、また「価値のあるもの」の価値を正確に見定める能力(=マーケット感覚)を身につけよう、という趣旨。
わたしちきりん氏はどちらかというと好きでして、とても賢くするどい視点で物事を見られる方だと思っております。以前も書いたのですが、彼女がとかく叩かれがちな理由は、彼女の断定的な物言いが細かい部分を見落とすこととなり、結果としてミスリードを招くことが少なくないからではないかと個人的には思っています。
とはいえ、自分の主張を伝えるために仔細をごまかすという手法自体はわたしもあまり好きではありません。
(おまけ)かぐや様は告らせたい?天才たちの恋愛頭脳戦/赤坂アカ
この歳でラブコメ漫画にハマることになるとは思ってなかった。
面白すぎて全巻そろえたけどなんとなく恥ずかしいのでKindleで購入したという逸品。(Kindle初使用)
かぐや様がなんといってもお可愛すぎるのですが、登場人物は全員お可愛い。もはや会長もお可愛い。
以上で今年の更新は最後です。
皆様よい年越しをお過ごしくださいませ。